映画『アアルト』
こんにちは、アイトリブの藤原です。
先日、神戸で映画『アアルト』を観てきました。以前もスタッフブログで20世紀を代表する建築家アルヴァ・アアルトについて触れましたが、今回映像を通して彼の人生を垣間見ることで、初めて分かったことや感じたことがたくさんありました。
岡山や広島でも順次公開されているようでぜひ一人でも多くの方に観ていただきたく、個人的に印象深かった部分をこのブログでお伝えできればと思います。
目次
人が中心のデザイン
普段から北欧インテリアに接するなかで思うことがあります。それは、どれも使い手の立場になり考えてデザインされたものだということです。アルヴァのデザインも正しく“人中心”で、インテリアだけでなく建物にも同じことを感じます。
以前のブログでパイミオ サナトリウム(1933年)を挙げましたが、アルヴァ自身が患者として病院で過ごした経験が活かされていることを知りました。
病に苦しむ人たちの気持ちが少しでも明るくなるような色使いや座ると結核の症状が緩和され呼吸が楽になる椅子、無機質な印象を与えない素材選び、曲線を用いた有機的な内装。モダニズム建築の代表作とされていますが、病院としての機能や合理性だけに留まらない包容力を感じました。先述のエピソードも裏付けとなり、デザインにより説得力を持たせています。
子どもたちとアアルト建築
さらに記憶に残っているのは、子どもたちが建物内外で過ごしている様子でした。
ヴィープリ図書館(1935年)では、スカイライトから降り注ぐ自然光に満ちた空間に設置された階段の手すりがあります。予告のトレーラー動画にも映っている1シーンですが、そのくぼみに子どもたちが手を添わせながら列になり下っていく姿が印象に残っています。
そしてもう1つが、ユヴァスキュラ教育大学(1956年)の外で子どもたちが楽しそうに追いかけっこをしているシーンです。まるでアスレチックのように塀を飛び越えていく姿と、建物がそれをあたたかく見守っているようにもみえてほほえましくなりました。無意識に触れたくなったり、安心感をいだいたり。迷いがない子どもたちの素直な行動一つひとつが、アアルト建築の魅力を改めて伝えてくれているように思えました。
支え続けたアイノ
今回の映画は、アルヴァ・アアルトの1人目の妻アイノにもスポットライトが当たっています。アイノがアルヴァの設計事務所に入所したのち、1924年に二人は結婚しました。建築はアルヴァが、インテリアはアイノが担当したと伝えられることもありますが、二人の役割を明確に分けることはできず、あくまでも立場は対等。お互いの才能を認め合い、協働でプロジェクトを進めていました。
▴ アルヴァとアイノの合作とされる「アーロン・クッカ(アアルトの花)」サヴォイベースの原型となる器
アルヴァが国際的な評価を得て世界を駆け回っていた間、アイノは妻として家族を守りながら、artekの経営や建築事務所の仕事に取り組んでいました。今回の映画では会えない時間を埋めるかのような二人の手紙のやりとりがたびたび出てきますが、正直な言葉で紡がれた文章は切なくもアイノの力強さを感じずにはいられません。時には男女問わず誰からも好かれる旅先のアルヴァを心配し、揶揄するような内容もありましたが(笑)アイノはアルヴァのことを「ろくでなしのいたずら好き」だと評していたそうですが、映画を観終わったあとはそれすら愛のある言葉に聞こえました。
アルヴァ・アアルトの人柄
最後に、今回の映画で個人的に一番衝撃だったのはアルヴァ・アアルトの人柄でした。
アイトリブでも取り扱っているartek(アルテック)からアルヴァの存在を知った私は、まず彼が手がけたインテリアや建築に興味が湧き、写真を見たり文書を読んだりしていました。「北欧の賢人」と例えられたアルヴァのことを、肖像を見て勝手ながら気難しそうな人だとさえ思っていました。
ですが、スクリーンのなかで動くアルヴァは正反対。周りの人から愛される自由奔放なキャラクターで、魅力に溢れた人として描写されています。私は驚くと同時に、スッと腑に落ちた感じがしました。
▴ 左上「ヴィラ・カルピオ(1923年)」右上「ヴィラ・マイレア(1939年)」左下「ムーラッツァロの実験住宅(1954年)」右下「フィンランディア・ホール(1971年)」
以前アルヴァが手がけた住宅が掲載された雑誌を読んだことがあるのですが、時系列にまとめられた写真からは本当に同じ人が設計したのか?と思うくらい変化に富んでいたのです。北欧の古典建築からモダニズム建築へ、そして自然とともに生きるフィンランド人としての住まいへと。晩年に向けて洗練の度合いを深めていきながらも、そこには囚われない自由さがありました。
アルヴァの生涯を追うドキュメンタリーとしても観ることができるこの映画は、華々しい活躍だけではなく最終的にネガティブな部分を映して幕を閉じます。ですが、包み隠さず描かれたありのままの姿に人間らしさを感じ、家で使っている家具にもますます愛着が湧きました。今までは漠然としていましたが、映画を通してアアルト建築やインテリアに惹かれる理由が少しわかったような気がします。はじめて見た気がしない懐かしさやあたたかく受け容れてもらえた感覚になるのは、アルヴァの人柄が宿ったデザインだからかもしれません。
映画を観終わったあと、つい勢いでアイノとアルヴァの書簡集(500ページ超)を購入してしまったので、年末年始はアアルトに思いを馳せながらゆっくり読もうと思います。
広島・岡山でも公開中です。観られた方はぜひ感想をお聞かせください!(私はもう一度観に行く予定です)
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広島 福山駅前シネマモード 12/21(木)上映終了予定
岡山 シネマ・クレール 12/28(木)上映終了予定
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